2011年02月25日

医者と提灯

山奥にポツンとある一軒家。
おじいさんとおばあさんが仲の良く住んでいた。
ある日、おじいさんが朝方目が覚めると、
おばあさんがすごい高熱でうなされていた。
おじいさんは、「こりゃ大変だ!」と
街まで医者の往診を頼みに出かけた。



ところが街のお医者様はどこへ行っても忙しそう。
頼んでも頼んでも「忙しいから」とけんもほろろに断られる。
朝から街中を歩き回り、もう駄目だと諦めかけた最後の病院。
なぜだか他のお医者様とは違って患者は誰もいない。
不思議に思ったが、おばあさんを助けたい一心で、

「あのぉ、すみません」
「おばあさんが、高熱でうなされてるので、診てもらえませんか?」
「ここからしばらくかかる山の中なのですが、
 朝からどこのお医者様にも断られ、先生しか頼る人がいません。」
「どうかおばあさんを助けてください。」

必死のお願いが届いたのか、
「それじゃあすぐに出かけましょう。」
とお医者様は立ち上り準備を始めた。

その様子を見ていたおじいさん。
「ひょっとして先生は目が見えないのですか?」
「そうですよ、目が見えないとまずいですか?」
「いえいえ、そうじゃありません。」
「ありがたいことです。」

夕暮れの道をおじいさんの家に向かって、
目の見えないことなど何の苦もなくお医者様は
おじいさんと一緒に歩いて行くのだった。


「おーい、お医者様をお連れしたぞ。」
「おばあさん、もう大丈夫だ。」
そう声を掛けながら寝ている枕元にお医者様を連れていった。
お医者様はしばらく黙っておばあさんを診ていた。

するとどうだろう。
不思議なことにあれだけ高熱にうなされていたおばあさんは
みるみる顔色が正気に戻り、元気な表情を見せるではないか。
「先生!」
「ありがとうございます。」
おじいさんとおばあさんは、目を見合わせ、
自然とお礼の言葉が出てくるのだった。

「それじゃ、私はこれで・・・」
お医者様は何事もなかったかのように帰り支度をはじめた。

おじいさんは、その言葉を聞いて、
「それでは一緒に街までお送りします。」
当然のことのように一緒に行こうとするが、
「ちゃんと帰れますから大丈夫ですよ。」
「それより奥さんと一緒にいてあげてください。」
そう言うと出て行こうとした。

それを見ていたおばあさん。
「せめて提灯でも・・・」
と起き上がり準備をはじめた。
「先生はな、目が見えないんだ。」
「失礼なこと言いましてすみません。」
おばあさんを制しながらおじいさんは謝った。

「いやいや、おばあさん。」
「提灯をお借りしてもいいですか。」
「私は目が見えないから、持っていなくても同じかもしれないが、
 他の人は私の目が見えないことなんて知からないからね。」
「他の人に私がいることを知らせるのに、提灯はちょうどいい。」
「ありがたくお借りするよ。」
そういうと、夜道の暗い中、
ひとりで提灯をぶら下げて帰っていくのだった。


posted by 岡田昌己 at 19:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 気の向くままに・・・ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック